main01こんにちは!私、三橋 健(みつはし たけし)と申します。長年、神道を専門に大学で研究や教育に携わってきました。大学を定年退職した今は、執筆活動の他、一般の方々と神社を訪問したり、神社の歴史や縁起について講演したりして、神社三昧の生活を楽しんでいます。最近は老若男女、神社に興味をもつ方が増えて、私としては大変嬉しい。「八百万の神」と言われるように、私たち日本人はあらゆるものに神様が宿ると信じていて、その神々を祀るところが神社なので、日本全国いたるところに鎮座されています。近くの神社でも遠方の有名神社でも、足を運びましょう。訪れると、きっと気分が晴れて元気になりますよ。

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三橋 健(みつはし たけし)
神道学者。神道学博士。元國學院大學教授。現在、「日本の神道文化研究会」を主宰。多忙な著作執筆活動に加え、デアゴスティーニ刊行の週刊「日本の神社」総監修も担当。

初詣は明治時代から始まった?

新年になると、多くの人が神社やお寺へ初詣します。出雲大社や伊勢神宮など有名神社の遷宮で神社が注目を集めたということもあり、さらに足を運ぶ人が増えたように思います。本当にいいことですね~。

出羽三山
羽黒山、月山、湯殿山からなる出羽三山神社は、開山以来、羽黒派古修験道が継承されてきた山岳信仰の聖地。江戸時代には「東国三十三ヵ国総鎮守」とされ多くの参詣者を集めた。

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出羽三山 羽黒山大鳥居

遠方の有名神社に初詣する、という習俗は意外と新しく、明治の中頃、各地で鉄道網が整備拡大され、遠くからの初詣が可能になった頃からです。もちろん電鉄会社の宣伝効果もあったでしょう。現在では大晦日は夜中も電車が運行しています。時代とともにスタイルが変容していくのは世の常ですが、日本人として本来の初詣の意義は大切にしたいですね。
そもそも初詣はどのようにして始まったのか?学問的には諸説あるのですが、私としては初詣の由来を「年籠り」と「恵方参り」で説明するとすっきりします。

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出羽三山 月山神社本宮

大晦日と「年籠り」

「年籠り」とは大晦日(江戸時代以前はおおつもごり、と読んでいました)の夕刻から、近くの氏神様に籠もって夜を明かす、という習慣です。現在とは違い、古くは夕方から新しい日が始まると考えられていました。現在でも重要な神事が夜に執り行われるのもそのためです。大晦日の夜には新しい年神様が来訪するので、神様を「おもてなし」するために神社に籠もり、新年の始まりを迎えたわけです。つまり、大晦日は旧年の最後の日でなくて、新年の始まりだったのですね。
神社で夜を徹して、新しく来られた年神様にお供えものをし、夜が明けたら神棚から下ろし年神さまと一緒にいただくーーこれが、元旦に家族揃ってお雑煮を食べてお屠蘇をいただくという習わしのルーツです。「年籠り」は、前年にお世話になった神様をお疲れ様、と見送り、あたらしい年の神様をお迎えするという背景があったのです。

氣多大社
浜から500m ほどの場所にあり、奈良時代以前から日本海の要所の神社として崇められてきた。縁結びのご利益でも名高く、縁結び専門の「幸せむすび所」がある。

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氣多大社 新門
安土桃山時代の造営。この神門をくぐると正面に拝殿がそびえる。国指定重要文化財

日本では年(時間)も神様

西洋の感性では、365日の1年が終わり暦がかわる、という時間の経過としての新年も、「八百万の神」の国日本では、「年」そのものを「年神」さまとして敬ったわけです。私はとても素敵な感性だと思います。古い神を見送り、新しい神を迎えるーー今の言葉でいえば、旧年をリセットして新年を迎えるということですね。これこそ、日本人が元旦を特別に思う原点だと思います。

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氣多大社 拝殿
江戸時代の建立で、北陸の左甚五郎と称された山上善右衛門作。国指定重要文化財

恵方巻きも初詣?

さて、元旦に神社に出向くという習慣について見逃せないのが、「恵方参り」です。 恵方といえば、関西地方で節分の日にその年の恵方に向かった太巻きを食べる「恵方巻き」で知られていますが、その昔は元旦に、自分の住んでいる家の恵方にあたる社寺にお参りしてその年の無事を祈るという習慣だったのです。恵方参りは、平安時代の記録にすでにありますが、盛んになったのは江戸時代で、これが元旦に神社にお参りする初詣の習慣の始まりといわれています。恵方は干支により毎年変わります。2015年は庚(かのえ)で西南西でした。来年の2016年の恵方は、丙(ひのえ)のほぼ南南東です。
明治になって、都市周辺の鉄道網が発達すると、恵方参りも近所の社寺でなく、郊外・遠方の有名社寺への参詣が盛んになったのですが、年毎に変わる恵方は鉄道会社の宣伝にとっては、ちょっと厄介で、方角に関係にない「初詣」という言葉が恵方より、頻繁に使用されるようになった、というのが昨今の解釈です。 近くの氏神様へ恵方参りしていたけれど、交通の発達で遠くの神社にもいけるようになって、方角の意義が弱くなり、お正月に神社に参詣する行為、「初詣」という言葉だけが残ったということです。

氷川神社
旧武蔵国を中心におよそ280 社ある氷川神社の総本社。境内の最寄りはJR大宮駅だが、時間があれば隣のJRさいたま新都心駅そばの、一の鳥居からの参詣がお勧め。南北に直線に延びる2㎞の参道は日本一の長さで、地元住民の誇りとなっている。

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氷川神社 拝殿・本殿
拝殿は入母屋造、本殿は流造でいずれも銅板葺き。三柱の神を祀る (C) Ocdp Wikimedia

時代とともに初詣の形式は変容しますが、昔も今も「新年が良い年でありますように」「気持ちを新たにして新年をむかえよう」という人々の思いは変わりません。これこそ、初詣の真意、だとおもいます。

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氷川神社 大祓式・除夜祭
年越しの大祓とも呼ばれる新年を迎えるための清め

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こちらは東京の赤坂氷川神社
東京十社の一つに数えられる名社


さてさて、こうした心願成就のためには正しい初詣の礼法が必要になります。日本の神々はとてもおおらかで、懐が深いのですが、それでも非礼はお受けになりません。
次回は初詣、参詣のお作法についてお話します。難しく考えることはないです。ちょっとした決まりごととその背景を知れば、皆さんの初詣がグレードアップすると思います。それでは次回まで、ご機嫌よう。